ヒーローは一人だけ
映画「ロッキー」の続編『クリード 炎の宿敵』は、ロッキーのライバルにして親友 アポロの命を、試合で奪ったロシア人ボクサー、イワン・ドラゴが、息子ヴィクターを最強の戦士に鍛え上げ、ロッキーへの復讐を図るという映画である。
ドラゴは、ロッキーとの試合に敗れ、国家的英雄としての地位と名誉を失い、ウクライナで貧しい暮らしを送っていた。
相手はロッキーに鍛えられたアポロの息子である。ドラゴとその息子は、結局は敗れる。
ここまでは良い。
けれでも、視点を変えればヒーロー足りうるドラゴとその息子が、あたかもヒール(悪役)として描かれているのは、日本人としては頂けない。ドラゴの元妻が、息子の敗色濃厚をみて試合会場から出ていくシーンに至っては、ガッカリしてしまう。
吉川英治の「宮本武蔵」五味康祐の「柳生武芸帳」を引くまでもなく、ライバルを等価に置いて描き切ってこそ、ドラマに味とコクがでる。