miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

制約の効用 - 丸山雅秋展をみて

「ブロンズや石膏という扱いにくい素材を使って不自由をあえて課し、本質的なものだけを表現する」 お能の女形と装束、動作を譬えに引いた造形作家丸山雅秋の言葉が印象的だった。徒然草の「よき細工は、少しにぶき刀をつかふといふ 妙観が刀はいたくたたず…

閑長の苦笑い

カフカは自作「審判」を友人たちのために朗読し、礼儀正しく自己弁護するヨーゼフ・Kを友人たちと共に笑いの的にしたという。ヨーゼフ・Kはカフカの分身なのだろう。その彼を笑い飛ばすことで作品が完成した。主人公ヨーゼフ・Kを相対化し、自己言及の呪…

閑長の数字とバイク 

7751は素数だろうか。一見するに素数に成りすました非素数の顔をしている。 素数一覧表に頼らずに電卓で、3、7、11、13、17、19と割っていって、ようやく23で商が337と表示された。素数ではなかった。経験からするとかなりの難物でも13、17くらいで割り切れ…

心底から湧き上がるもの

日展三山の一人高山辰雄の横顔を伝える「父 高山辰雄」という本がある。捜索現場を子供の頃から見つめてきた娘さんが書いている。その中で「顔輝は人間の心の底を掻きまわして、その奥から湧いてくるものを作品としたのだろう」と語る画家のエピソードが紹介…

蟷螂の夢 邯鄲の斧

晩秋になってカマキリを見かけると蟷螂の斧のことわざを思う。いわずと知れた、空しい抵抗の譬えである。邯鄲の夢もはかなさの諺であるが、シルエットも似たこの二つの俚諺の、夢と斧を入れ替えても十分に通じそうな感じがするのは、中国古典の含蓄の深さで…

おやきとおはぎの文化考

長野名物のおやきとおはぎは、名前だけでなく丸い外見も似ているが、おやきは具が中にくるまり、おはぎは、具に相当する黄な粉やあんこが皮を覆っている。身と具が逆転している。 具が外にあるおはぎは、見た目は華やかだが、移動と保存は難しい。携帯性が低…

閑長の秘蔵の段

一昨日のブログで、徒然草を高一で習ったと書いたが、久々取り出した三省堂のテキストが抄録であることに気付いて驚いた。例えば八十八段「小野道風の和漢朗詠集」は未採録なのである。お気に入りのこの段、岩波文庫を基にあらすじを自己流に記してみたい。 …

理論と実験、それに蛮勇と・・

日本人のノーベル賞受賞で、一番多いのが物理学賞の9人。次いで化学賞の7人。物理にアメリカ国籍の南部陽一郎、中村修二を加えれば総勢11人と2ケタになる。日本は物理大国である。 物理には、理論物理と実験物理の二ジャンルがあって、車の両輪という。ノ…

前後即成立に非ず 説法即先覚に非ず

徒然草に枕草子、そして方丈記を日本の三大随筆というらしい。この三作品、高一で徒然草を習い、二年で枕草子、その後土佐日記や鏡物と一緒に方丈記を知ったから、成立順も履修順だとばかり思っていた。放送大学を視聴し、平安時代に枕草子がなり、鎌倉の前…

閑長の修学旅行

久々の同級会で、「修学旅行のバスで、君と隣だった」と、旧友に告げられ当惑した。全く覚えていなかったのだが、記憶を辿ると、車窓の風物と学生服姿がおぼろに蘇った。40年も前の旅である。 行き先は奈良と京都で、確か三泊四日の旅行だった。話は弾み、酒…

主張する登場人物

菊地寛だったと記憶するが、作中の人物が作家の言うことを聞かずに自由勝手に振舞って困った・・とどこかに書いていた。菊地はたしか、作中の男女を結びあわせたかったのだが、どうもうまくいかない。自分のペンひとつでなんとでもなりそうなのに、ゴールイ…

閑長の燗冷まし

カフカ去れ 一茶は来たれ おでん酒 加藤楸邨 十三夜には少し早い今宵、NHKの天気予報で予報士が「酒」の季語をクイズにしていた。ヒレ酒、温め酒、寝酒、玉子酒で秋の季語はどれかというもの。 聞いていてフト上の句が浮かび、かねて一茶は蕪村がよい、と…

閑長、本日の計量

近頃は食後の体重で45㎏台のことがしばしばである。医者は「45はちょっとね」などと曖昧ながら良くないことを示唆する。そう言われても50台になるより42㎏になる方が楽に思える。盆の墓参りで、御影石に映った自分が一時退院者にみえた。 肉がやせて来る太い…

閑長の対象と方法

「対象はある 方法はない」 カフカの「城」の一言コピーである。10年くらい前、確か新潮文庫の帯で見かけた。城に雇われたにもかかわらず、城に通じる道がわからず麓の村に留まらざるを得ない測量師の境遇に相応しいキャッチである。本はすでに持っていたか…

表現のむこう側

テレビで死人が現れる「井筒」という「能」をみた。能は死者の踊りといわれるほど、死霊が多く登場する。見終わったあと、ラテンアメリカ文学を思った。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」でもルルフォの「ペドロパルモ」でも死人が生きている人のように描…

アナザーと一期一会

映画「風と共に去りぬ」は、レッド・バトラーに去られ、打ちのめされたスカーレットが「明日は明日の風が吹く」と呟いて自分を鼓舞するシーンで終わる。原文「Tommorow is another day」。タイトルの"風"に掛けた翻訳で、男性的なスカーレットらしい。直訳す…

閑長の音感と触覚

以前、TBSの「情熱大陸』で、ギタリスト沖仁がスペインのコンテストで超絶的なテクニックで演奏するも、優勝を逃したエピソードを番組にしていた。沖は長野出身で、フラメンコギターの名手である。 翌年沖は、晴れて優勝を勝ち取るのだが、「スペインに溶け…

末期の言葉あってこそ

林倭衛は隣町出身の画家である。生家の前の旧道が私の通学路だった。「出獄の日のO氏」で知られるこの異色・酒豪の画家は、青春の日の詩で「全て狂乱にまで逆上りゆく極度の緊張にありたい」と、「魂の爆発」を願った。 浴びるほど酒を呑み、酔いから醒めて…

交歓の卵

太宰作品で何遍も再読しているのが「親友交歓」。理屈抜きで面白い。作家として売れ始めた太宰が、突然訪ねてきた自称同級生に秘蔵の酒を呑み尽くされ、最後にはド突かれてしまう。 三島由紀夫では「卵」。学生運動を茶化した戯画的作品であるが、三島自身、…

ウラ地の思い出

BSの「世田谷ベース」で、所ジョージが学生服の話をしていて学ラン時代を思い出した。 定番のトンボの他、富士ヨット、カンコ―学生服などのメーカーがあって、自分を含め男子学生は、制約の中にもそれぞれ個性を競った。学年が上がると、更に粋がったブラ…

黄金の時間と夜の森

「生きる時間が黄金のように光る」 人生の折々で思い出し、つぶやいてもみた村野四郎「鹿」の一節である。 国語の授業で習った一篇。フト思い立って中学時代の教科書をみたが見当たらない。ネットで調べて高一の教科書に載っていたことを知った。思えば中高…

待つこと、おもいだすこと、ひとり言

リルケは、“詩作とは待つことだ”としている。ニーチェはツァラトゥストラの執筆を振り返って、“ツァラツウストラが自分を襲った”と言っている。 詩聖や哲人には及ぶべくもないが、閑長はこのブログを書くとき、いつも記憶を頼りに思い出しつつ書いている。だ…

閑長のながい話

子どものころから物語が好きで、本をよく読んだ。家には子供の本が数冊しかなかった。文学全集をもつ友が羨ましかった。 小学校に上がる前、大きな借家の縁側で「話をしてほしい。長い話を聞かせて欲しい」と祖母にせがむと、しばらくして「昔むかし、あると…

閑長が感じる鼓動

素数とは、1 より大きい自然数で、約数が 1 と自分自身のみである数。現代社会ではクレジットカードの暗号化技術に使われるなど、無くてはならぬものとなっている。素の数というより、英語のprime numberの方が実体を顕わしている気がする。卓越の数。気高く…

閑長は愛犬家

オードリー・ヘップバーンとピーター・オトゥールの「おしゃれ泥棒」の冒頭で、オークションでご婦人の抱いた犬の鳴き声をビットとして扱ってしまうシーンがあった。すぐに勘違いを正してオークションは進むのだが、オークショニアの立ち振る舞いが普通すぎ…

閑長の一瞬と一日

慣れない展覧会の準備で孤独と不安に襲われたとき、いつもパワーを補充してくれたのが 植村直己の言葉だった。 「撤退の言い訳をしている自分に気付き、愕然とする」 「どうしよう どうしよう ここで死ぬのか」 植村を救ったのは、自信や勇気ではなく、不安…

閑長のおぼろな眼

「信濃美術館移動展」は今、千曲市のアートまちかどを巡回している。展示されている藤島武二の「春」という作品をみて、絵は遠くから見るものだと、しみじみ思った。描かれた小径が浮き上がり、前後の風景は、春風の匂いと温かさをはこんでくるようだった。 …

閑長の伸び縮みする時間

「1年かけて描いた絵も、見極めるのに一秒もかからないよ」 敬愛する丸田隆則画伯の忘れられない一言。 「デッサンの20㎝で、その画家の腕がわかる」こちらは鬼才 梅野亮画伯の至言。 どちらも画家自身の言葉だけに、寸言だが重たい。 腕前はもちろん、眼も…

閑長がみた風の色

あんなに耳にした蝉の声が、近頃トンと聞かなった。 蝉鳴くや つくづく赤い風車 ふるさと信濃の俳人小林一茶の句。“つくづく”が効いている。めっきり秋めき、近頃は吹く風にヘアラインが感じられる。 白山の石より白し秋の風 芭蕉の秋を捉える感性には心底、…

閑長の剃り残し

俳聖芭蕉の名句「古池や蛙飛びこむ水の音」の『水の』が余計だといった詩人は誰だったか。思い出すまでは自分の所見と詐称したい。映像は、我が家の庭のマリーゴールドと、秋の蛙。「オッカムの剃刀」ということわざがある。 14世紀の神学者オッカムが唱え…