miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

見失ったインデックス 飛んで行ったコンテンツ

 少し前、読売新聞主筆渡邉恒雄による昭和の回顧番組が放送されて、楽しめた。中で渡邉は、若いころ読んだカントの有名な言葉を諳んじていた。番組とは直接関係のないシーンなのだが、驚いたのは、その言葉が書かれている箇所を、実に正確に指摘したことである。

「わたしたちが頻繁に、そして長く熟考すればするほどに、 ますます新たな賛嘆と畏敬の念が心を満たす二つのものがある。それはわが頭上の星辰をちりばめた天空と、わが内なる道徳法則である。」

 この一文、実践理性批判の結語の冒頭に書かれている。実践理性批判とわかっている人、結語と覚えている人、そこまでは少なくなかろうが、結語の冒頭と即座に言ってのけたのは、主筆がよほど読み込んだ結果とみた。

 話したいのは、インデックスとコンテンツの関係である。閑長は加齢により記憶力が大きく減退しているが、忘却しているのとは違う。思い出すきっかけ、見出しが見当たらないのである。このはてなブログも難儀しながら思い出しつつ書いている。反対にAI化の進む現代のデジタル社会は、情報という形でインデックスが満ち満ちているが、はたしてコンテンツはしっかり伴走しているのだろうか。

 池澤夏樹は世界文学を読み解いた著作で、メルヴィル「白鯨」のテーマの一つを「この世界にインデックスはない」こととしている。だからあんな巨大で得体の知れない怪物が登場するのだ。メルヴィルがもしも、現代版「白鯨」を書いたとしたら、どんな怪物を登場させるのだろうか。

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