「一つの文章に同じ言葉は二度使うな」。以前、新田次郎のこの言葉を採り上げて投稿とした。その時は同じ言葉を使った例として志賀直哉「暗夜行路」の “力こぶ” を挙げたが、もっと盛大な例外があった。
川端康成の「眠れる美女」で五六行の文に “みにくい” が六回も使われている。しかしこれだけ多く使われると、例外や逸脱というより、作品の主旋律の趣きを帯びる。寄せては返る波のようである。生涯、日本古来の美に拘泥した川端が「みにくい」を反復したというのは、興味深い。美しい、麗しい、の繰り返しであったら、美も花も風雅も随分と軽いものになっただろう。