miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

「惚れたが、悪いか」

 掲題を作品最後のセリフに使った同じ作家が「生まれて、すみません」とも書いている。

「惚れたが悪いか」は、太宰治お伽草紙』所載「カチカチ山」のタヌキの最期のことばである。
 昔話を翻案し、処女の冷酷さをもつ美少女をウサギに仕立て、愚鈍で哀れな中年男をタヌキに配している。タヌキはウサギにぞっこんである。だからどんな過酷な目にあってもウサギに恋い焦がれる。最後に溺死させられる時まで。
「生まれて、すみません」は、麻薬と自殺未遂で不安定だった太宰28歳の短篇集『二十世紀旗手』の副題である。「狂言の神」、「虚構の春」、「雌に就いて」 など、副題で贖罪でもしているような無頼の作品で編まれている。

 どちらも傑出した警句で、才気が漲っている。が、投げやりと卑下の陰で、どこか安全圏に安住する作者をみてしまう。「一斑を見て全豹を卜す」の誹りは承知である。「惚れさせたが、悪いか」「死んでしまって、すみません」が、どうしても見え隠れする。

 安全圏といえば、対局なのが求めて危険ゾーンに飛び出す三島由紀夫である。三島の場合、危険といっても模擬的な色彩が拭いきれないが。

 タイトルは困った。安全圏と危険ゾーン、迷彩と演習、一斑と全般、どれも座りが悪く、愚鈍で哀れな中年タヌキの末期の一言にした。

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 昔見た冬の雑木林