手に入れて、失って・・
幼い頃、祖母から大ゾウムシを貰った。祖母は電車で遠出し、帰りの駅で捕まえたと云った。“ お前への土産がなかったから、丁度良かった ” とほほ笑んだ。その同じ日、ゲンゴロウも手に入った。他人からもらった覚えはない。自分で捕まえた確かな記憶もない。家の横が川だったから、フト飛んできて、採るともなく手にしたのだろう。
ともかく当時、保育園生の閑長は、一日にして大ゾウムシとゲンゴロウのオーナーになったのである。おもちゃなどロクになかった昭和中期の話だから、その満足感と優越感は、今もこうしてハッキリと記憶に残っていることでもわかる。
けれども翌朝、虫かごに入れておいた大ゾウムシは、建付けの悪いカゴの隙間から遁走し、盥のゲンゴロウは再び何処へか飛び去っていた。こうして閑長の栄華は一晩で仕舞いになったのである。
兼好法師ならば、この逸話をもって、一段ものすだろうか。すべて脚色も誇張もない実話である。