慣れない展覧会の準備で孤独と不安に襲われたとき、いつもパワーを補充してくれたのが 植村直己の言葉だった。
「撤退の言い訳をしている自分に気付き、愕然とする」
「どうしよう どうしよう ここで死ぬのか」
植村を救ったのは、自信や勇気ではなく、不安と孤独に正対する自分自身だった。不安を行動のエネルギーとする“どんぐり青年”の姿に展覧会と格闘する自分を重ねた。
「一日がまるで一瞬のように過ぎる」
キルケゴールは、概念と言葉で不安を描き出したが、人一倍、死を恐れた植村は、鼓動と呼吸で、不安と自己を浮き彫りにしている。だから、その生涯の一瞬が、オーロラのように輝いた。