両替お願いします

　「コインに両替できない紙幣はニセ札だ」と喝破したのは、現象学の始祖エドムント・フッサールと記憶する。
　意味するところは、どんなに難しく高尚な理論でも、かみ砕いて説明できないモノは皆まやかしだ、という意味という。
　当妙の比喩に脱帽である。但し、ご当人の著書は「ヨーロッパ諸学の危機・・」でも「イデーン」でもドエラク難しくて歯が立たないが・・
　さて、松本清張の美術小説「青のある断層」の冒頭に、両替不能な一文が掲載されていて滅法面白い。清張自身「さっばりわからない・・」文章としている。無論、清張の創作文である。
　ちかごろ、訳あって美術論文を読むことが多いのだが、かの小林秀雄の文章がわかり易く思えるほど、両替不能なご論考に出くわすことが多い。そんな場合、意味が通らなくても、イトせめて、喚起される、もしくは記憶に残る「一文」に出会いたいものだと念願している。