キリストの後ろ姿について、今まで二度ほど投稿した。「キリストの後ろ姿を描いた作品がない」と。ある美術館の館長に質問をぶつけるチャンスが巡ってきた。館長さんは西洋絵画の歴史に詳しく、入門書も多く描いている斯界の権威である。
返答は「記憶にない」だったが、近い作例としてフランスのドレの絵を教えてくれた。しばらくドレの作品巡りが続く予感がする。
るす模様としての道
少し前に、キリストの後ろ姿を描いた絵を観てみたいが、後ろ姿の絵は観たことがないと投稿した。今も変わりがないのだが、最近、美術書を眺めていて、「こんにちは、クールベさん」がそれに近いように感じた。ギュスターヴ・クールベの代表作にして意欲作である。
その絵、厳密に後ろ姿を描いていないが、左後方からの視座と対する二人の人物のアングルによって、おおよそ背後からの作品と見做しうる。そこに描かれたクールベの自我と主張は、超越的な存在と神的な信念をイメージさせる。
そこから連想が広がった。「こんにちは、クールベさん」は路上での出会いを描いているが、「道」の絵の多くが、キリストの後ろ姿の留守模様のように思えてきた。岸田劉生、長谷川利行、東山魁夷、ホッベマ、フリードリヒ、まだまだ沢山あるように思う。
いま、窓の外は春の雪である。閑に任せた連想は、雪のように舞って、サッと消えてゆく。
リストの後ろ姿
キリストを仰視するピエロ・デ・ラ・フランチェスカ
横臥するキリストを足の裏から見せたアンドレア・マンテーニャ
同じく横臥のキリストを真横から描いてみせたハンス・ホルバイン
十字架のキリストを天空から描写したサルバドール・ダリ
古来、様々な角度で描かれたイエス・キリストであるが、寡聞にして後ろ姿を描いた作品を知らない。
後ろ姿は立ち去る、つまり民衆を見捨てるイメージを想起させるためか。
観るものも含め先導姿のキリストを観てみたい。
描いて欲しい画家は幾人も思いつくのだが。