miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

不倒、不眠、そして不滅

 ボードレール「憎悪の樽」の最終段を長く理解しかねていた。疑心化された憎悪と、酔漢との境遇の違いが胸に落ちないのである。敵わぬ相手としての「酒」や、憎悪の片棒のような「復讐」も、擬人化されて登場する。岩波文庫 鈴木信太郎訳で最終段をみよう。

  ― だが幸福な酒飲みはやがて参ると解つてゐるが、
  憎しみの担う悲惨な宿命は 食卓の
  下に倒れて その儘眠ることさへ出来ない 

 近頃、出版書としてはマイナーな平岡公彦の「悪の華【1857年版】」を読んでイメージを抱くことができた。酔っぱらいは酒に飲まれてつぶれても、憎しみに安息は来ない、と宿命の差を言っているらしいのである。

  ― しかし幸いなる泥酔者は倒れ伏すことを知る
  だが憎しみは哀れな宿命の虜となり
  永久に食卓の下に崩折れて眠ることさえ叶わない

 この解釈で、堀内大学、鈴木信太郎安藤元雄福永武彦阿部良雄他の諸訳を読み返すと、ナルホドそういう意味のことを書いている。金子光晴は、「酔っぱらいは“おつもり”を心得るが、怨恨は“正体”を失えない」と、俗っぽく対比している。

してみると、真の勝者、敗者は誰なのか。閑長の現時点の受け止め方は次の通りである。

  酔漢 < 酒 < 憎悪 < 宿命 < 不倒、不眠、不滅の憎しみ