三十五腰と一文字

　国宝の太刀山鳥毛が岡山県瀬戸内市の所蔵に収まった。瀬戸内市は山鳥毛の属する刀工流派 福岡一文字の里である。五億円という購入資金は、寄付金で集められ、購入が決まった際は、800年振りの里帰りに、地元も寄付者も大いに湧いたという。
　この刀、一時は新潟県上越市でも購入が検討されたが、という値段が折り合わずに市が購入を断念した経緯がある。山鳥毛は上杉景勝の愛刀三十五腰の一振りであり、上越は上杉家所縁の地である。

　つくづく悔やまれることがある。
　瀬戸内市と上越市が半額づつ寄付を募って共同で獲得し、展示も半分づつにしたら良かったのに。岡山と新潟の回遊券も作れたのに。泉下の一文字の刀工衆も謙信公も景勝公も祝杯を挙げただろうに。全国の愛刀家の方々、刀剣女子諸姉のみなさんも、多分、ご賛同頂けただろうに。