谷崎潤一郎の中篇小説「黒白」は、谷崎の作らしからぬ処がある。筋がキッチリ通っている上、犯罪小説張りのストーリー展開をみせる。差乍ら江戸川乱歩の探偵小説である。
「黒白」のあらすじを記す。
水野なる作家が、自分と実在の人物をモデルに、完全犯罪の殺人事件を書く。すると、モデルに使った実在の人物が小説の方法と同様の方法で実際に殺され、殺人小説ゆえに嫌疑を掛けられてしまう・・。
虚構と現実が交錯するさまをタイトルの「黒白」で表象している。
白と黒という対照的で根源的な色彩は、正反対のものが入り乱れ、縺れ合って存在するさまを表現する時に、お誂え向きの取り合わせである。
沓掛利通「雪の野」