二番煎じですが・・
バルザックの「ゴリオ爺さん」は知れば知るほど名作と思う。手に取ったのが40代なのが悔やまれる。
サマセット・モームが「世界の十大小説」に選んで宜なるかな、である。
若い頃食わず嫌いだったのはタイトルの、陰気さ 爺むささだった。
原題は「Le Père Goriot」で、”Père”は仏語で「お父さん」「親父」の意味らしいから翻訳として無理はないのだが、“爺さん”の話なんぞ読みたくなる人は少なかろう。“ゴリオ”、もイガイガ感があってちょっと胃がもたれそうだ。
同じく「十大小説」のフローベールの「ボヴァリー夫人」も、名作には違いないが、タイトルで得をしている。フランスの香気を感じさせる。原題の「Madame Bovary」をそのまま訳したに過ぎないのだが・・。
「ボヴァリー夫人」には「マダム・ボワ゛リイ」という翻訳例もあるようだ。然らば「ゴリオ爺さん」はオシャレに「ペール・ゴリオ」で如何なものか。「ペール・ギュント」の例もあるし・・。と思ったら「Peer Gynt」の”Peer”はノルウェー語の固有名詞のようだ。
構やしない、「ペール・ゴリオ」で行こうぜぃ 。
「感情の自動激化」「思考は人を殺す」(平岡篤頼)というバルザックの思想を、親の愛も行き過ぎるとわが身を亡ぼす、という身近 な例で味わえる世界の名著を、タイトルだけで敬遠してしまうのは勿体ない。
書き終わって調べたら鹿島茂先生の同書訳に「ペール・ゴリオ」(藤原書店)があるのを知った。流石蒐書家にして碩学の先生である。