miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

そこにいる文豪

 「アンナ・カレー二ナ」の女主人公アンナは、最後に列車に飛び込んで自死してしまう。飛び込むその場面ではアンナが一瞬、ためらい思い留まろうとする様子が描かれているのだが、その部分を読み返すたびにトルストイの意図を思わずにはいられなくなる。逡巡の記述が詳細なのである。
 「アンナ・カレー二ナ」は、トルストイが5年の歳月を費やして書いた世界文学の傑作である。17回も書き直したという。彫琢に彫琢を重ねながら、自死の逡巡部分を詳細にしたのは、作家の明確な意思と思う。決意の自裁に及んで、その最後の瞬間まで生に執着する人間。それでも結局は神に己を委ねる人間。文章にトルストイの人間感と宗教観が刻まれている。アンナに重なってトルストイの姿がある。

 f:id:miyukie33ok:20211224110014j:plain