成し遂げられし・・
絵そのものではなく、展覧会のサブタイトルを誉めるのは、文学だったら電車の中刷り広告か帯のキャッチを誉めるようなものだろう。それを知りつつ、作家さんの叱責覚悟で、梅野記念絵画館で開催中の保科豊巳展のサブタイトル「 - 出来事としての絵画 - 」は良いメッセージと思った。
ゲーテの「ファウスト」で出来事「Ereignis」という言葉は、出来事というに値する出来事、つまり“成し遂げられたこと ”の意味であり、至高の事実という意味で使われている。手塚富雄博士の所説である。
作家さんがサブタイトルを付けた意図は判らないが、作品として確固不動の事柄となった、と受け止めることは差し支えないと思う。展覧会から帰宅して、作品を思い返してそう感じられる。
神秘の合唱
~ゲーテ「ファウスト」の末尾
Alles Vergängliche
Ist nur ein Gleichnis
Das Unzulängliche,
Hier wird’s Ereignis
Das Unbeschreibliche,
Hier ist’s getan
Das Ewig-Weibliche
Zieht uns hinan.
なべて移ろいゆくものは
比喩にほかならず
足らわざること
ここにて高き事実となりぬ
名状しがたきもの
ここに成し遂げられたり
永遠の女性
我らを高みに引きゆく
保科豊巳 インスタレーション