花をのみ待つらん人に
4年ほど前、飯田美術博物館で菱田春草の「菊慈童」を観て、絶句した。平面作品とは思えない奥行きと大気感、湿気感があった。これが絵としたら、今まで見てきた絵はいったい何だったのか、大袈裟でなく、そうまで思った。
その飯田美博で今、没後110年の菱田春草展が開催されている。電車とバスを乗り継いで目薬を差して観に行った。「菊慈童」ほか、名品揃いで堪能したが、賛嘆する気にはならなかった。照明が明るすぎた、暗めの光で、不分明な方がかえって見えてくるものがある。
タイトルに使った和歌は鎌倉時代の歌人 藤原家隆の作で、岡倉天心鍾愛の一首、その歌い出し部分である。五七七はこう続く。
山里の 雪間(ゆきま)の草の 春を見せばや
春草の絵は、雪間のような、ゆかしげな光の下で鑑賞してこそ語り出す。