強大な視野と頭脳
豪傑の名にふさわしい大学者の一人に今西錦司がいる。民俗学のレヴィ・ストロースに比肩しうると思う。
今西錦司の主著の一つ「生物の世界」は学術論文並みに難解である。その視座は、生物界の構造から歴史、環境、社会にまで及び、フツーの講談社文庫の一冊には思えない。
今西提唱の「棲み分け理論」は東洋的自然科学の金字塔であろう。底流になぜか“慈しみ”のこころを感じてしまう。
しかし、この大学者の肉声はといえば、そこらの縁側爺さんのように、さばけて、ザックバランなところが、人間の多面性を体現しているようで、それも実に愉快である。
因みに冒頭の「豪傑学者」なる比喩は、博学強記の谷沢永一から借用した。同氏が中国史の泰斗 宮崎市定に使った形容である。そういえば両豪傑ともに京大の先生である。