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閑長のひとり言

閑長のひとり言

ガッシ

 BSのリバイバル放送で朝のテレビ小説「あぐり」が流れてい、森本レオ演ずる森潤なる風来文士が登場する。ドラマでは、戦時中、一旦姿を消していたが、また大陸から舞い戻っている。この人のモデルはダダイスト辻潤で、終戦の前年初冬、アパートで餓死している。享年六十。だからドラマの森潤関連の前後の話は全てフィクションである。
 さて、辻潤の最高傑作は、「自我経」であろう。彼自身、本作によって自分の立ち位置が決まったと記している。「自我経」はドイツの思想家マックス・スティルネルの「唯一者とその所有」の訳本で、岩波文庫にもなったが、再刊されることはよもやあるまい。内容的には、虚無的な自論に淫している。
 このマックス・スティルネルも49歳で貧困のうちに餓死している。日独二人の餓死者を結ぶ著作のラストは結構有名で、つぎのようなセンテンスである。
 
  Ich hab' mein Sach' auf Nichts gestellt.

直訳すれば「私は私の事柄を、“無”の上に置く」となろうが、辻の「自我経」は、

 「私にとって一切は無と云い得る」と訳す。

原文も訳文も共にエッジとパンチが効いている。

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