miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

魂の往く道

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 岸田劉生はクリスチャンとして知られる。劉生日記には、“神よ助け給え”、“神よ感謝いたします”などの言葉が並ぶ。最近、劉生が読んでいた聖書の版本を繙いて、ヨハネ福音書の冒頭、「ことば」に「道」という字が当てられているのを見つけた。劉生が目に停めない筈のない一節である。聖書館刊行の明治32年の旧新約全書、劉生が生涯、手放さなかった一書である。
 劉生の“道”といえば、「自分の行く道」という随筆が思い出される。“自己の道は、自己丈の道である”と宣明した全集で七ページほどの文である。自分の行く道の性質は、“自分の絵をみれば解る”と締め括っている。
 もう一つ忘れられぬ劉生の“道”がある。大正9年7月8日木曜の日記に“カンタンに見えても正しい事を愛して生きる事がただ一つの正しい道だ”と記されている。大正期のもう一人の画魂 村山槐多の遺稿、おそらくは「槐多の歌へる」の読後感を、“醜い感じ”とし“カンタンに見えることは恐れる必要はない”と断じた後の一文である。
 聖書の用語と劉生の思いとの関連に、勝手な想像を巡らすことは楽しい。閑長には劉生の一路がみえて励まされる。

 “初めに道あり 道は神と伴にあり 道は即ち神なり”