miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

老狼の美

 ヘッセの「荒野のおおかみ」には、小説と詩があるが、詩の方の話である。
 この24行の詩は、

 「おれは荒野のおおかみ、走りに走る」と始まり、
 「生活を朗らかにしてくれるものは、おれから遠ざかってしまったのか」と続き
 「おれの尾はもう白くなりかけた。 目もはっきりと見えない。 女房ももう幾年も前に死んだ」と嘆きながらも、
 「走りながら、うさぎの夢を見る。 おれの哀れな魂を悪魔のところへ運ぶ」と締めくくられる。

 この老狼、弱りながら自分の本質を理解し、信念のままに生き抜く。悪の世界に向かおうとも、走りを止めようとはしない。

 岸田劉生は「劉生画集及び芸術観」で、「一番大切なことはより深き美を見ること」として、「深き美の命令の前には良心は不必要」とする。獣の生と画道と、世界こそ異なるが、閑長には老狼の生き様に深い美を感じてしまう。

    GEDICHT VOM STEPPENWOLF

    Ich Steppenwolf trabe und trabe,
    Die Welt liegt voll Schnee,
    Vom Birkenbaum flügelt der Rabe,
    Aber nirgends ein Hase, nirgends ein Reh!

    Trabe und träume von Hasen,
    Höre den Wind in der Winternacht blasen,
    Tränke mit Schnee meine brennende Kehle,
    Trage dem Teufel zu meine arme Seele.