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閑長のひとり言

閑長のひとり言

文豪二人の審美眼

 川端康成は国宝二点を所蔵する美術コレクターだった。その一つ「十便十宜図」は池大雅与謝蕪村の奇跡の競作である。浦上玉堂の「凍雲篩雪図」はおそらく玉堂畢生の傑作だろう。康成の蒐集は作品に似ている。日本古来の文人精神に、嫋やかさが備わる。他の愛好家が尻込みしそうな高額でも、意に沿った品物なら「お安いものですね」と応じたという。今なら途方もない値の付く青磁皿を、埴輪一個と交換したという。埴輪は少女の頭部だった。

 小林秀雄は、繊細でしかも力強い美術品を好んだ。好き嫌いが明確で、主人が函から出した瞬間に「買ったぁ」と言ったかと思うと、大名品でも趣味に合わないと「好みではない」と突き放したという。日本画では富岡鉄斎を好んで、批評になっている。浦上玉堂には “画技に乏しく、酔っぱらってどこかに行ってしまった人である”と素っ気ない。不思議に思える鉄斎好きの玉堂嫌いである。

 康成と秀雄は、真贋騒動のあった佐野乾山の評価も二つに割れた。康成は“絵が悪い。真贋以前の問題”とし、秀雄は“贋物臭など全くない”と評価した。出版社主催の芸術賞で、それぞれ別の画家を推して譲らず、社を困らせたという逸話も知られている。

 要は、静謐な品格を重んじる感性と、騒々しくも勁さを好む精神の差だろう。閑長は康成の眼力を敬い、秀雄の嗜好を慕う。
 
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 窓辺の蠟梅