札幌の古書店から村野四郎詩集が届いた。旺文社文庫版の、かねて探し求めていた本である。目当ての「鹿」をめくると、加藤楸邨の文が添えられ、良寛が自作の歌を認めた書を、翁が寸でのところで手に入れ損ねた逸話が引かれていた。神無月の丘に濡れそぼつ男鹿を詠った書だった。翁はその時の思いを句にし、句集も編んでいる。逸話も詩も歌も以前から知るところだったが、北海道からやって来た小さな文庫に揃ってみると、鹿のとり持つ機縁を思った。
「生きている時間が黄金のように光る・・」村野四郎
「まぼろしの 鹿はしぐるるばかりかな」加藤楸邨
「やまたづの 向ひの丘に さを鹿立てり 神無月 時雨の雨に 濡れつたてり」良寛