キックの覚悟
閑長の世代にとって昭和の中頃はキックの時代だった。仮面ライダーに沢村忠、ジーパン刑事松田優作が活躍した。近頃使われる「エッジ」ということばを聞くと、「キック」のエピソードを思い出す。
白洲次郎が戦前に留学していたオックスフォードの旧友ロビン伯を日本に招いた。二人とも結構な爺さんになっていた。在日中、酒宴となり、白洲正子の繋がりで小林秀雄も同席した。日本製のウイスキーも供され、小林が「どんなもんだい 日本のウイスキーもここまで来たぜ」と突っかけた。英国貴族のロビンは応じた。「Well、I don’t think so. ウイスキーは男の酒だ。飲み手を拒むキックが要る。このウイスキーはマイルドだが、キックがない」。小林は「男の酒? キック? キックはねえやなぁ」と呟くしかなかった。通訳したのは次郎である。
今、男のキックといえば、夏神輿、自動巻き時計、初期ハードトップ車、上古刀、唐津のぐい吞み、睡眠代りのジン、世界フランチェスカ巡り、入れ墨などか・・。担い手、持ち手に相応の覚悟が必要となるという基準で思いつくまま挙げてみた。