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閑長のひとり言

閑長のひとり言

孤舟の逆接

 蘆花浅水

 釣りをやめ、帰り来たりて船をつながず。江村、月落ちて、正に眠るにたえたり。たとい一夜、風吹き去るとも、ただ蘆花浅水(ろかせんすい)のほとりに在らん。

 釣りを止めにして戻ってきたが、船を岸辺につなぐのを忘れてしまった。川辺の村に月も落ち、眠るにちょうどよい頃合いだ。たとえ夜のうちに風が吹いて、船が流されてしまってもかまうまい。どこか蘆の花咲く水辺に漂っているだろう。

 作者の司空曙は唐の詩人。地方で役人をしていた時期もあったが、出世と無縁で、生活は質素で恬淡としていた。漁師の、執着を捨て俗世を離れる姿に、自身を投影した一篇とされる。本心は舟を案じる気持ちを振り払う漁師がいて、それが詩の風韻を増している。閑長はそう味わっている。

 詩の趣きを感じさせる一枚の絵に出会った。心の花美術館「上田ゆかりの作家たち」展。会期はあと一週間。

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 林倭衛「釣り図」