理論と実験、それに蛮勇と・・

　日本人のノーベル賞受賞で、一番多いのが物理学賞の９人。次いで化学賞の７人。物理にアメリカ国籍の南部陽一郎、中村修二を加えれば総勢11人と２ケタになる。日本は物理大国である。
　物理には、理論物理と実験物理の二ジャンルがあって、車の両輪という。ノーベル賞は基本的に実証された研究に限られ、実証されない理論オンリーでの受賞は難しいらしい。かのアインシュタインのノーベル賞受賞理由も、未解明の相対性理論ではなく、実証済みの光電効果の解明だった。

　ところで、日本で二番目に物理学賞を受賞した朝永振一郎の「繰り込み理論」は、理論と実験を相互に補い合ったような数学的技法のようである。素人の私には正確に説明できないのだが、計算上は「無限大」になって算出できなかった数値を、実験で得られている数値を答えとして扱い、完成させた理論、と受け止めて大きな誤解はない、と勝手に納得している。「無限大」を「無限大」で差っ引いて打ち消すことから「繰り込み」理論と呼ばれているようだが、忘れないように、実験値を計算値に繰り込んだから「繰り込み」・・と覚えている。
　
　理論と実験を架橋するなど、実に大胆不敵な離れ業だ。受賞から半世紀を経た今、朝永博士のこの壮挙に改めて拍手を送りたい。　
　
　東沢亜人「ひととき」