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閑長のひとり言

閑長のひとり言

末期の言葉あってこそ

 林倭衛は隣町出身の画家である。生家の前の旧道が私の通学路だった。「出獄の日のO氏」で知られるこの異色・酒豪の画家は、青春の日の詩で「全て狂乱にまで逆上りゆく極度の緊張にありたい」と、「魂の爆発」を願った。
 浴びるほど酒を呑み、酔いから醒めて作品をものし、また呑んだ。が、死の床では「元気になったら、もう酒もタバコものまない」とつぶやいた。五十を目前にしてのことだった。
 学生時代、ランボーの詩と生涯に魅せられた。近代詩を蘇らせたこの詩人は、「モラルなんて考えだすのは脳ミソが弱ったせいだ」と嘯いた。早々に詩作を捨て、商人として中東、アフリカをのし歩いた。過去の詩業は「水割りワイン」と切り捨て、顧みなかった。
 宿痾をえて故郷フランスに還され右足を切断、いよいよ最期となったとき、「なにもかもフイにしたのはこの自分だ」と涙にかき暮れたという。

 強烈な二つ魂の、末期のエピソードの持つ意味は重い。教訓としてではない。生き様とは裏腹の言葉が残されたから、あの構図とモチーフ、あの響きと比喩に、なおさら滋味を覚える。
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