黄金の時間と夜の森
「生きる時間が黄金のように光る」
人生の折々で思い出し、つぶやいてもみた村野四郎「鹿」の一節である。
国語の授業で習った一篇。フト思い立って中学時代の教科書をみたが見当たらない。ネットで調べて高一の教科書に載っていたことを知った。思えば中高時代こそ、黄金の時間だった。
「大きい森の夜を背景にして」
近頃は上の詩句に続く最終節に滋味を感じる。背景が地となり、全的な存在にも思えて、光るのではなく光らせねば、と思えてくる。
鹿は 森のはずれの/夕日の中に じっと立っていた/彼は知っていた
小さい額が狙われているのを/けれども彼に/どうすることが出来ただろう
彼は すんなり立って/村の方を見ていた/生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である/大きい森の夜を背景にして
村野四郎 「鹿」 『詩集 亡羊記』所収
沓掛利通「雪の野」