miyukie33ok’s blog

閑長のひとり言

閑長のひとり言

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

“みにくさ” でつたわるもの

「一つの文章に同じ言葉は二度使うな」。以前、新田次郎のこの言葉を採り上げて投稿とした。その時は同じ言葉を使った例として志賀直哉「暗夜行路」の “力こぶ” を挙げたが、もっと盛大な例外があった。 川端康成の「眠れる美女」で五六行の文に “みにくい” …

名人の次手

川端康成は自作のなかで「名人」が一番気に入っていたという。「名人」は「不敗の名人」が敗れる姿を、観戦記者からの目で書いた囲碁小説で、川端がかねて描いてきた「雪国」や「古都」からみると異質の世界である。男の勝負の世界をえがき、筋がしっかりと…

劉生の二書

「劉生画集及芸術観」 言葉を尽くし、何度も繰り返して、“深い美” と “しんとした美しさ” について語っている。訥弁である。切れのある修辞や比喩でない分、真情が伝わって、読み飽きない。汲み尽くせない。閑長にとっての美への尽きない道しるべである。「…

頭肉の嘆

「通勤が 運動だったと 気づく腹」 生命保険会社募集のサラリーマン川柳の一句である。 閑長は在宅痩せで困っている。 一時退院の入院患者のようだと家人に言われる。頭の冷え性の閑長は、家でもベレー帽を被っている。そのベレーがブカブカになった。 頭皮…

遣い尽くすべし、または今宵の一滴

「男は配られたカードで勝負する」 好きなセリフである。映画「ファミリービジネス」で出会った。盗賊家業のショーンコネリーが、今際の際に孫に授ける。手札に文句は言わぬ。 学生時代、よく「問題をよく読め」と注意されたものだ。大概、早とちりの間違い…

ぽかん力と突然力

スルバインの「壺のある静物」は好きな絵だが、観るたびに白か透明の普通のコップが一つ欲しいと思う。凝っていない何でもない器物であれば、コップでなくても良い。息がつける。金魚鉢に浮かべる陶器の玉も、伊万里風の柄ものの中に無地の球が一つあるとホ…

いしが活かし、いしが弑す

レオナルド作と騒がれるカターニャの自画像を観て、率直に後人の描いた理想像と思った。眼に意志がない。意欲、狂熱、自負、逡巡、悔恨、レオナルドであればそのどれとも特定できない情念が感じられてよい。カターニャの自画像から閑長が感じ取るのはせいぜ…

続 迷言、妄言

少し前に記事にした妄言録の第二弾である。 「錆が出るのは鋼(ハガネ)の証拠」 手入れを怠った証拠でもある。 「平均は群れる」 平均値は最頻値に近い。 「いっつのっと オーバー てぃる こふぃんいず オープン」 棺桶がおいでオイデをしている・・

眼の楽しみ、心の愉悦

血道をあげて手に入れた美術品でも、手に入れてしまうと頻繁に観ることは少ない。同行の士に尋ねても状況は同じようである。昔、三十六歌仙絵巻の一枚を手に入れたコレクターもNHKの取材に同じ回答をしていた。 では、手に入れなくても良かったかというと…

不愛想の美

贋作は、高級額に入れ替えてみれば馬脚をあらわすといった人がいる。試したことはないが同感である。 簡便なのは“はいポーズ”と語り掛けること。無反応なら佳品と思っている。主に花の絵を見るときの御まじないである。微笑み返すような絵はいつか見尽くして…

権とエンタイトル

オリンピック開催がニュースや新聞記事になっている。中止やむ無しの声も聞こえる。 「エンタイトル・オリンピック」「権の五輪」で開催してはどうか。相対的に安全性の高い場所で、種目ごとに東京オリンピックとして開催、表彰する。開催国は世界各地を対象…

アイ、クッド・・、メイビー

映画「追憶」はホテル前で始まり、同じ場所で終わる。そのあいだ、時代は往き、記憶は往還する。恋ごころは揺れはするけれど、アルバムの写真のように動かない。時代を渡った人と、渡らずに居残った人の物語である。「負け上手」とは、本人が言ったら覚悟で…

翻訳の餓え

好きな外国の著作は邦訳の全部集めたくなる。そんな本が何冊もある。今、思い出すだけでも、ゲーテ「ファウスト」、カフカ「審判」、メルヴィル「白鯨」、ブロンテ「嵐が丘」、ドストエフスキー「罪と罰」、ベルグソン「時間と自由」等々。 集め易いのはマイ…

二兎とサイコロ

河野行革担当大臣が五輪開催について「どちらに転ぶかわからない」とコメントし、それがニュースになるのが変である。当たり前であるから。 発言力も影響力もないリタイアの閑長なら何を言っても構うまい。思いは二つだけ。 ・国民の健康と命を賭けに晒すべ…

強妻にオーパ

開高健の「オ―パ」「オン・フィッシュ」が滅法面白い。 文が話しかける、というより、が鳴りたてる。ウイスキーをブッくらって、大ナマズを釣り上げてハンマーでドヤし、塩焼きにしてビールで流し込む、とは憧れのアウトドアライフである。世界各地を釣魚行…

まず、楽しもう

NHKのあの人に会いたいで女性物理学者「米沢富美子」がアンコール放送された。閑長は長年の富美子ファンである。自伝も架蔵、愛読している。 知能指数175を「問題数がもっと多ければ200を出せた」と言いのけ、育児・家事の中でも「研究時間は取れる」と垂範…

慈愛は媚びず

若冲が好きになれなかった。と言うか食わず嫌いだった。作品が騒々しく思われ、くどくどした印象を拭えなかった。同感の人も少なくなかろう、と思い込んでいた。 近頃、若冲を特集した番組がいくつか流れ、画家として出発する前、二年ほど丹波に隠棲したこと…

こふぃんのっとおーぷん ぼやき録再録

これはもう投稿したろうか。とっくにした気もする。 雪の結晶はなろうと思って成ったのではない。成るべくして成ったものである。 その重いが時間を経て結晶し、こんな寸言になった。 「成るようにして成ったのが、本質である」 こういった迷言、妄言は他に…

吹いても飛ばない一手目

「将棋の勝敗は全て一手差、私と素人の方が差しても同じです」と語ったのは、当時、名人位にあった大山康晴だったと記憶する。対談かなにかで読んだとき、単純に“そりゃ、二手続けて差せれば、誰でも勝てるサ”と早合点したものだ。もっと深い意味と将棋観で…

物理のモノ、数学のコト

湯川秀樹博士は自伝の「旅人」で、高等学校時代に数学と物理の選択に迷い、結局、物理を選んだいきさつを書いている。一つ一つ脱線せずに積み上げていく数学のアブローチ方法を敬遠し、物理を選んだらしい。厳密な理論と、自由な発想の物理との相性が、後の…

刻まれる

数学者でエッセイストの藤原正彦は、父であり作家の新田次郎に「一つの文章に同じ言葉を二度使うな」と言われたという。今に戒めとしている寸言であるが、記憶を紐解くと例外がたくさんあって当惑もする。 学生時代、生協で上下二冊本で買った志賀直哉の「暗…

ソロとアイコンの時代

勤めを止して靴が変わった。皮のビジネスシューズが、スニーカーと運動靴になった。靴が変わるとズボンが変わり、ベルト、インナー、アウター、そして帽子に及んだ。靴に服があわないと様にならない。こういうのを下部構造が上部構造を規定する、とマルクス…

流れる

人気画家にも流行があって、若冲、フェルメールは半世紀前にはさほど騒がれていなかった。閑長が幼いころ読んだ美術画集に、若冲の絵はは小さく二点、フェルメールはデルフトの眺望しか掲載されていない。当時はマチスとルオーの時代だった。 今、流行と書い…

毒消しビイル

小沼丹を読み返した。一時田村書店の主人が「小沼丹も知らない奴は店に来るな」と弩やかして、知られるところとなった文学者である。読むと井伏鱒二、日夏耿之介、谷崎精二ら、早稲田文学の面々が出てくる。 一冊読むか読まぬかする内に小沼の語りに浸ってい…

孫悟空の立て看板

この投稿の結論はこんな感じである。もちろん閑長の管見である。 ・現代アーティストの奇抜でチャレンジングな作品群は、ここまで来たぞ、その眺望はこうだ、というテーゼである。 ・意気やよし。問いかけのための問いであっても意義はある。 ・だが、その先…

令和30年の風景

平成年間は30年あったが、最後のおおよそ5年で平成になった。最初の10年、15年くらいはまだまだ昭和だった。平成を平成たらしめたのは先ず大震災であり、そしてスマホとAI化の進展だった。 令和は、頻発する自然災害とコロナの世界的蔓延でいきなり、垂直…

抽象の母なる“制約”

正月特番で縄文、弥生のこころを採り上げた番組が流され、王塚古墳の壁画が日本独自の意匠として焦点が当てられていた。らせん模様や三角形を組み合わせた文様で、動物や人物を描いた中国や朝鮮半島の壁画とは全く異なる独自の意匠という。ゲストの女性心理…

ペヨング、よろし!  

おせち料理を食べ尽くし、買い出しに行ったスーパーで「ペヨング」ソースやきそばを見つけて初笑いした。贔屓のカップ焼きそば「ペヤング」の廉価版らしい。メーカーは異なる。まだ賞味してないが、本家の隣に陳列してあったので、味も意識してチャレンジン…

好みの語釈 用例の妙

新明解国語辞典が改定され「言い換えにとどまらず本質に迫る」というキャッチにひかれてパラパラ立ち読みした。 いつも引く語は決まっている。最初に「励行」これが、“励み行うこと”と書いてあるとがっかりする。ついで「宗教」。OEDのRgligionの説明が頭…

アウトプットのDNA

大谷崎こと谷崎潤一郎は、自身の分身饒太郎を主人公とする短篇で、思想書でも小説でも最初の数ページを読むだけで中身がわかってしまうと書いている。100%本当ではないとしてももちろん虚構ではなく、事実潤一郎はそういう体験をしたのであろう。 西田幾多…